箱根駅伝、順大雌伏15年

 「強い順大がかえってきました!」テレビからアナウンサーの声が響く。NHKラジオは「順大が強くないと箱根はおもしろくありません」とリスナーの声を届ける。第98回東京箱根間往復大学駅伝競走大会(以下、箱根)2位のゴール。順天堂大学(以下、順大)のアンカー近藤亮太君が両手を広げてゴールテープを切る姿が映る。紺地に白抜きで、胸に大学のマークがくっきりと見えた。

 あのマークは何を表すのか?「あの逆さ温泉マークなぁ・・・」と4年生の先輩はうまくごまかしたが、それが順天堂の創始者・佐藤泰然の頭文字Sをあしらったものと知ったのは後日のことだった。1838(天保9)年佐藤泰然が江戸の薬研堀に蘭方塾を開いたのが順天堂の始まりである。以後、医育期間を併設した西洋医学の医療機関として170年近い日本で最もながい歴史と伝統を誇っている(出典ウィキペディア)。

 順大は箱根で過去11回の優勝を誇る伝統校である。箱根駅伝は1920(大正9)年に第1回大会が行われ、順大が予選会を経て初参加したのは1958年の第34回大会だった。初優勝は9度目の挑戦1966年の第42回大会。このとき日本陸連のK委員長(現役の大臣だった)がお忍びで習志野の校舎を視察し、「こんな小さな大学のどこに優勝する力があるのか」と訝しんだとのこと(先輩の話)。以後優勝11回を誇る箱根の常連校となって今日に至る。

 だが、2007年の第83回大会で優勝してから棄権、不出場を含め二けた順位で苦しんできて、今回15年ぶりにトップ3入りを果たした。携帯から元エースの声が流れる。「ホント久しぶりだね。今から飲むよ」。滋賀のM君が贈ってくれた「鮒ずし」をスライスして祝杯を挙げるという。OBですらこうなのだから現役の監督、コーチ、選手、大学関係者の喜びはいかほどだろうか。

 箱根は金がかかる。財政が豊かでない教育系大学は苦しいはずだ。いい選手を集めないと勝てない。今季新入学生の上位5名の平均タイム(ランキング)を見る(月刊陸上競技)。

1位 青山学院 13分55秒16  2位 東海 13分59秒15  以下、3位 明治 4位 東京国際 5位 国学院 6位 東海 7位 中央 8位 駒澤 9位神奈川 10位 日体大 11位 中央学院 ときて、順大は12位 14分16秒74。

 こうして年々高校生のスカウティングは過熱化し、「授業料免除」に加え高校卒の初任給並みの奨学金を付与する大学もあるとメディアが報じている。高校生の親が「お宅はいくらくれるんですか」と要求に転じる例もあるというから世の中は変わったものだ。金がないと勝てない?地味な順大ですら年間8回の合宿を持つ。日体大、国士館、筑波、順大などの教育系大学ではOBは教職経験者が多く年金生活が主でなかなか寄付が集まらない、だから低迷していると識者は言う。 

 順大生は今もきっちり授業を受けているのだろうか。順大は医学と体育の共存を唱える大学で、1971(昭和47)年当時われわれ体育学部3年生は週に一度、お茶の水の順天堂医院で解剖実習を行っていた。地下室でホルマリンのニオイを嗅ぎながら死体と向き合った日々。実習日は昼休みにランニングを済ませ、あわただしくJR津田沼駅に向かったことを思い出す。平常授業は9:00~15:00までびっしりと組まれていて、その学生らしい規律が順大のポリシーであり、誇るべき矜持だった。

 授業だけでなく春、秋いずれかには教育実習もある。その前後、約1か月は満足な練習が出来ない。教案作成、授業、反省会、夜にはまた翌日の教案作成と慣れない実習でくたくたになる。今回アンカーとして準優勝のテープを切った近藤君の腰には実習で出会った生徒たちから贈られたという赤い鉢巻がまかれていた。勇気をもらったことだろう。学生らしさが伝わる。

 2021年5月20日~23日に相模原ギオンスタジアムで開催された第100回関東学生選手権(関東インカレ)で順大は1部男子で16年ぶり16度目の総合優勝を果たした。初優勝は1969(昭和44)年、わたしたちが1年生のときだった。千葉県営陸上競技場でその感動を経験したと記憶する。順大は陸上競技全般に力を注ぐ。その中での準優勝は価値ある成績ではないだろうか。

 青山学院大の原 晋(すすむ)監督と違っていい、これからも順大らしく箱根を走ってほしい。「君は今回の箱根をどう見る?」その昔エース区間の2区を走った同級生に電話を掛けた。「三浦(東京五輪300M6位)を1区に使う噂もあったけど2区を走らせてよかったよ、エースだからね、それなりの区間を与えなきゃ伸びないよ」。さすが視点が違う。続いて彼は言う。「順大も18位、17位と出足悪かったが、どこかでブレーキはあるからね、今回は駒澤、早稲田など他校の失速に助けられたから油断できないよ」。元エースは最後に付け加えた。「15年だぞ、一度落ちたら盛り返すのに15年かかるんだ、おれたちの頃は予選会の存在すら知らなかったよ」と笑った。彼は3位、2位、2位、4位(ずいぶん叱られたらしい)を経験している。ここが順大の定位置だったのだ。彼は3日の午後、うまい酒を飲んだだろうな。

 順大体育学部昭和47年度卒業生は2年に1度同窓会を開催している。宮崎、高知、栃木ときて次回は島根出雲市となってから新型コロナ禍のため2度の延期となって、本年10月9日、いよいよ同窓会開催となる(あくまで予定)。延期中に数人の同級生が手術をしたと連絡があった。そんな年齢に達したわたしたちは、旧交を温める宴会の翌日「出雲全日本選抜駅伝競走大会」を沿道で応援する日程を組んでいる。関東からは箱根の上位10チームがめでたく出場となるから、今年の同窓会はいっそう盛り上がることだろう。同窓生と並んで、手術跡が痛むほどの応援をしてみたいものだ。

シニアの昭和史 独り言 (還暦野球スポコラ改題)

輝くシニア発掘~中高年に励ましを~

1コメント

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  • sin********water9

    2022.01.07 09:14

    陸上競技でも金銭絡みなんですね、野球だけだと思っていました。順大陸上部卒業生の竹本さん あす、1月8日西明石上が池公園で「鬼頭 修 審判講習会」(2人制)に行きます。