アリゾナ野球の旅(4)
火曜日、3日目は疲労のピーク。だがこの日はロサンゼルス・エンジェルスのキャン地メインスタジアムでの試合だ。岩山を背にしたTempe Diablo スタジアムはかつて松井秀喜選手もキャンプを過ごした場所ではないか。スタンドではスパイク・シューズや大会記念シャツの販売などがあり、そのお祭り気分に快い緊張感と喜びを感じる。
ゲームは接戦。チームは勝てそうなのに勝てない。追い上げられてわがドジャースはピンチに。わたしはブルペンへ走った。練習指令が出たのだ。今日も肩が軽く、ボールはまったく走らない。しかし永年の経験はありがたいもので、ライトフェンス外のブルペンで何とか投げられる状態にはなった。「ハイ、タケモト!」そう言われた気がして白いラインを超えてマウンドへ走ると聞き間違い。英語がわからないからこういうミスもある。
「待機してくれ。君はネクストだ」。ベンチで待つ間に同点にされ、さらに2点のリードを奪われた。無死満塁。そこで登板せよという。せめてリードか同点の場面で投げさせてほしいじゃないか、「無茶苦茶やで」と思っても仕方がない。いきなりレフト前にゴロのヒットを打たれて2失点(自責点なし)。次のイニングにヒット、四球などでまた満塁に。また2点取られた。悔しい。わたしは自分のプライドをかけて必死にならざるを得なかった。
肩が温まってからはダブルプレーを含む連続ピッチャーゴロで3アウトに。2イニング2失点がテンピ・ディアブロ・スタジアムにおけるわたしの成績だった。限界を知るか、はたまた自信を持つか。明日からの試合が教えてくれるだろう。まずまずのピッチングだった。ちょっと意外だったのはメインスタジアムなのに整備の状態があまり良くない。日本のプロ野球選手なら文句の一つも言いたくなるような状況だと思った。アメリカは何事においても鷹揚な国民性なのかもしれない。
これは書いておきたい。マウンドで、わたしは不思議な感動に包まれていた。2月になれば人生を賭けて多くのメジャーリーガーやマイナーの選手たちがこの地へやってくる。そこにいる自分。レフト後方のアリゾナらしいごつごつとした岩山を眺めながら、胸にDodgersのマークが入ったユニフォームのわたしは目頭が熱くなるのだった。
アメリカで野球をするときはいつもそうだが、地元選手を優先するからなかなかチャンスが巡ってこない。忍耐と孤独を要求される。まあ当然ですが、その中で野球をするから成長するのだ。帰路にスーパ-で寿司と日本酒を買った。ホテルの部屋でワールドシリーズを観戦しながら一人で乾杯をしよう。そして「ペドロ・マルチネス自伝」のページをめくるのだ。
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