「アホか、あんたら」
人工埋め立て地・播磨新島中央公園野球場へ足を踏み入れたのは数年ぶりだった(7/27)。土山街道から右に入ったが、信号、踏切に引っかかって時間を必要とした。やはり遠い。グランドで対面した懐かしい顔が「体調崩してね」と、幾分寂しそうな表情を見せた。ファイトの塊のような人だったのに。「この歳になると、また一年みんなと野球ができるだけで幸せですよね」とあいさつすると、「ほんとうに」としみじみと同意されていた。
背番号#32の方は、「今里資料はどうなっていますか?野球展に行ったんですよ」と、思いがけないご挨拶をいただいた。ここには野球の好きな人たちが集まっているのだ。資料を送りますと約束。
還暦のエース・Kさんが指の傷で投げられずに、わたしが先発。いくつかの不調、不運が重なって初回に5点与えて2回裏にも1点。ここで自ら降板を申し出てベンチへ。古希・還暦と6連勝中だったが、ついに敗戦投手。みなさんには申し訳ないが許してもらおう。2試合目の交流戦では3イニングを0点に抑えて勝利に貢献。ベンチの信頼がかろうじて残っただけで良しとする、今日の遠征だった。
と書いた日から、またまた練習、試合が続いた。昨日8月3日は還暦野球の試合で甲子園浜へ遠征。バスの中では漫才のごとくに会話が進む。「ワシ、コメダコーヒーへよく行きまんね、おばさんらと話すのが楽しいで」と独身のKさん。会計のMさんがすかさず突っ込む。「あんたの話はすぐそこへ行くなあ。よく旅行行ってるけど誰と行くんや?」。kさん「そら娘でんがな」。「何歳の娘や?」。暑さも吹っ飛ぶというより、暑さがぶり返す漫才。
イニングごとに氷で首を冷やす人、自販機で午前中だけで5本の飲料を飲み干す人、塩をなめる選手もいる。熱中症アラート発令中の炎天下に野球をする人たち。試合後は相手チームと和やかな会話をしてクーラーの効いた車内へ。「ここは別世界だ、今日も無事に終わったな」と最年長者(82)がホッとする還暦・古希野球の現場。すごい挑戦だ。
各自が何に挑戦しているかは定かではないが、とにかくみんな、何かの限界に挑んでいることだけは確かなのだ。スポーツの持つ競技性が楽しいから熱中するのか、仲間との活動がうれしいのか、生きている実感が得られるから野球をしているのか。ただ一つ言えることは「みんな野球が好き」なのだ。
私の知人に退職後(彼は教師だった)スレートで葺いた作業場で単車をいじっている人がいる。昔から機械が好きで、子どもたちのおもちゃを修理する「おもちゃ病院」(ボランティア活動)の先生でもある。昼間に単車工房を訪れると、おそろしく暑い。小さな扇風機ひとつで単車を修理しているのだ。朝の五時半、自宅前で彼と出会う。彼は単車で、わたしは野球のユニフォーム。目と目であいさつを交わす。「お互い好きでないとこんなことやってないでぇ」と言い交わしているようだ。「好き」の内容を語れと言われても、こればかりはなかなか分かってもらえない。
70歳を過ぎるとコンディション維持が難しい。ランニングしていても若いころのような弾力のある走りは出来ない。調子に乗ってスピードを上げるとふくらはぎにピリッと痛みが走ったり、膝が滑らかには動いてくれないし、慎重な姿勢が必要だ。体のどこにも痛みがない状態で試合の日を迎えることができたら御の字で、打った打たない、勝った負けたは付録。帰り着いてシャワーを浴び、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。クーラーを利かせたテレビの前でグイッと飲み干す瞬間のうれしさ、ありがたさ。感謝の一言。この歳で野球ができる喜びを感じて、思わず、還暦野球バンザイ、古希野球最高!と叫ぶ。そして知らぬ間に眠っている。
夕食時にそんな話を切り出したら、誰かに言われた。「アホか、あんたら」。
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