鈴木啓示さん、ありがとう!

 ひとつの仕事をなし終えた爽快感と少しの疲労が増幅され、一種の充実感となって全身に沁みていく。西脇市が生んだ317勝投手(歴代4位)を顕彰する10周年の記念大会が成功裏に終了したのだ。関係者の努力が示された見事なイベントだった。

 昨年の暮れだった。西脇軟式野球協会のF副理事長から「ちょっと市民球場へ来てくれないだろうか」と打診され、軽い気持ちで出かけたら協会理事長就任を依頼された。NPO理事長を後任に譲って、生まれた自由時間を夫婦の時間や好きなライティングに費やすぞと思った矢先の理事長就任だから、きびしい決断を迫られた。

 受諾の要因はふたつ。子どものころから何かにつけて頭をよぎった元近鉄バファローズの大投手、鈴木啓示さんや関係者と創り上げてきた「草魂カップ」(学童の大会)が2022年には10周年の記念大会を迎えること。成功のためにはどうしても主管する軟式野球協会の組織力と広い視野が必要だった。それと若い日々に仲間と燃えた軟式野球の現場だ、随分とお世話になった協会だ、断れないじゃないかと思った。

 そして迎えた「第10回 鈴木啓示 草魂カップ学童軟式野球大会」は12月4日西脇公園野球場で感動の開会式を迎えた。県下32チームが行進。「毎年、わたしが子どもたちから元気をもらっています」と鈴木さんが語る学童たちの姿。年明けに「あれから」と題して1ページ大の記事を掲載するために目下鈴木啓示さんを取材中の読売新聞大阪本社三田市局長のT記者が感動の面持ちで言った。「草魂カップ、このネーミングがいいですねえ」と。

 国会議員のF先生、K西脇市長、議会議長のY氏、S教育長などが顔を揃え、大会プログラムとして4ページの「スポニチ」特別号を作成してくれたW記者(現北海道支局長)及びS記者(大阪本社)も同席された。さらには鈴木さんの従妹さん二人、実弟のSさん、友人知人も本部席へ。わたしの恩師である元西脇工業高校駅伝監督のW先生も来てくれてにぎやかなオープニングとなった。

 そのとき市長に付き添ったHさん(市の幹部だが)、実は彼女は「草魂カップ」誕生のきかっけを創ってくれた「西脇時報」(当時)主筆の娘さんだった。「NPOを創設して次世代の育成に乗り出したTさん」の記事を読まれた鈴木さんが「わたしにできることなら何でも協力しますよ」と電話をくれて、その後行政関係者の協力を得てこの学童大会が誕生した歴史を持つ。西脇時報社が「草魂カップ」の誕生に大きく貢献しているのだ。

 開会式の帰路、彼女は実家へ立ち寄っている。大会が立派に成長していることを父の霊前に報告して、母にもそれを告げたのだ。「母は涙ぐんで、喜んでいました」とのこと。西脇時報の記事によって「鈴木啓示 草魂カップ」が誕生した。表面に現れない地味な仕事だが、そういう人たちの努力によって新しい歴史が築かれていくことを、わたしは目の当たりにしてきた。

 大会前日には審判代表を含む関係者は、鈴木さんや報道関係者と食事を共にした。この試みは新理事長としてのたっての希望だった。現場の人たちは試合をこなすことに追われ、鈴木さんとの交流機会を得ることがなかなか難しい。それでは残念だ。親密感が生まれない。食事会では副理事長のFさんが対面で中学校時代の思い出を語った。「鈴木さんのあのカーブはぜんぜん打てなかったですよ」。Fさんと鈴木さんは同学年である。閉会式後は鈴木さんにお願いして審判団との記念撮影にも応じてもらった。記念大会の主役は彼らなのだ。

 最終日の11日(日)は本部席に関係者が勢ぞろい。神戸新聞社の現職はもちろん、幾度となく鈴木さんを取材した元北播総局長のYさんも手土産持参で鈴木さんとの再会を愉しんだ。スポニチのSさん、ディリ―スポーツの方、もちろん元駅伝監督も。その対応に鈴木さん本人に疲れが出ないかとS議員が心配したくらい、みなさんが心を一つにした大会だった。

 「これだけはお伝えしたい。引退後、野球人として成長を続ける人と進歩が止まる人がいる。鈴木さんは学童野球等を通じてレジェンドのあるべき姿を体現しているのではないか。あの人はけっしてタレントやバラエティへは近寄らない。ラーメン店へ予約を取るときも必ず、野球界の鈴木ですが、と言われてます」。取材中のT記者は「その話、すごいですね、感動的です」と、メモの手を走らせた。

 子どもたちへの声掛け、親子との写真、色紙へのサイン、負けて去るチームへの激励など、年毎に鈴木さんのサービスも多くなるが、嫌な顔をせずむしろ積極的に動かれた。13日(火)の今日、鈴木啓示さんから電話が入った。「いい大会を世話していただいて、わたしは体を運ぶだけなのに、皆さんにはお礼の言葉もありません。スポニチの号外もあちこちから所望されてすぐになくなってしまいましたよ。関係者のみなさんにくれぐれもよろしくお伝えください」。

 野球一筋、努力一筋、政治色なし、昭和最後の男。そんな草魂投手の人柄に惹かれる自分がいて、10年が過ぎた。「1年後といわず、年が明けたら西宮でゴルフでもやりましょうや」。「そうですね、鈴木さんのパットへの集中力、300勝投手のすごさを感じます」と応じるわたし。「遠慮なんかなしですよ、ゴルフ以外でも、いつでもいいから電話してください」。お互いに1年でもながく健康で居ましょうよと約束をして電話を切った。するとわたしの口から自然と言葉が漏れた。「鈴木さん、ありがとうございました」と。

 昨日(12日)のFacebookに以下の書き込みがあった。その主はわたしとともにこの10年、大会を運営してきたS市議会議員である。大会のすべてが込められているので勝手に引用させていただいて、「鈴木啓示 草魂カップ」感動のまとめとしたい。

 ☆西脇市が生んだ317勝の大投手・鈴木啓示氏の座右の銘を冠にした「第10回鈴木啓示『草魂カップ』学童軟式野球大会」が県下各地から32チームが参加して開催され、本日、準決勝・決勝を行い、見事、ウッディボーイズ・イースト(三田市)が鳴尾北レッズ(西宮市)を4対0で下し初優勝しました。

 鈴木氏は1回戦から決勝までの3日間、全てにお越しいただき、各会場を回って子どもたちや保護者に気軽にアドバイスや激励をしていただき、本当に感謝申しあげます。また、今回はスポーツニッポン新聞社のご厚意により、スポーツ新聞形式のプログラムとしました。鈴木氏や巨人の大勢選手、各チームの主将のコメントも入っていて、見ごたえのある誌面となっています。少子化の中で子どもの数が減少していますが、西脇多可では8チームが存続し、野球を通じて子どもたちの育成に貢献していただいています。

 4万人足らずの西脇市ですが、鈴木氏をはじめ丸山完二氏、ソフトバンクの甲斐野、オリックスの吉田凌投手など14人のプロ野球選手を輩出しており、15人目のプロ野球選手が誕生するのを楽しみにしています☆

 

 


シニアの昭和史 独り言 (還暦野球スポコラ改題)

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