駅伝と西脇市~記者への手紙~

拝啓 B新聞西脇支局長 A記者 様

 昨日は男子第73回、女子34回の全国高校駅伝現地取材、ご苦労様でした。地元西脇工高の健闘は記者の眼にどのように映りましたか。以下は男子に限っての話ですが、予想では多くの市民、関係者から「今年は優勝」との声が出ていましたが、わたしは良くて3位、悪くて6位と予想していました。結果は「その通りだったじゃないか」などというつもりはありません。

 2年連続の入賞は立派なものだし、この一年、監督、コーチ、選手たち(もちろん控え選手も含め)さらには保護者、OBの方々の努力は多大なものだったと推察します。外部から冷めた意見を述べるのは適切ではありません。懸命な努力、そこに敬意を払いつつ、だが誤解を恐れずにわたしは提案します。「西脇を駅伝の町と呼ぶのはもうやめましょう」と。

 西脇工高が8回目の全国優勝を達成したのは2002(平成14)年の第53回大会でした。その後、3位、11位、4位となって、渡辺公二先生は2009(平成21)年3月に監督を退任されました。最大の功労者が去ったわけです。その年、第60回の記念大会では後任の足立幸永監督がチームを2位に導いています。西脇工から日本体育大学へ進み、箱根駅伝で活躍した人です。大学では主将を務めたとも聞いています。すばらしい後継者が誕生しました。

 しかしながら成績はじり貧状態に向かっていきます。62回大会の4位、63回の2位(どちらも立派です)を最後に、出場大会で10,19,16,6,13,24位と長期に低迷します。足立監督の新しい指導理念、方法が実ってきたのか、昨年7位、昨日6位(一区では長嶋君が初の区間賞)と上昇の兆しを見せています。だが全国優勝はもうありえないだろうし、目標を別なところに置くべきではないかとの意見もボツボツ出始めているのが西脇工高の駅伝をめぐる諸状況ではないかと、わたしは思うのです。

 そのあたりのことは、現場の記者として、西脇支局長として、地域を見つめている「記者の眼」が鋭く見抜かれているようですが、A記者さん、本当のところはどうなのでしょう?

 A記者、あなたの駅伝に関する記事を初めて目にしたのは2022(令和4)年、つまり本年の4月29日でした。記事のタイトルは「子午線マラソン存続を―ランナー有志が署名を提出」となっていましたね。西脇市が打ち切り方針を示した「日本のヘソ西脇子午線マラソン」について、「42年も続いたヘソマラソンを打ち切るなんて市は何を考えているんだ、まちづくりの観点はどこへ行ったのだ」と、怒りに燃えるランナー有志が署名7,163名分を西脇市に提出したという記事でした。

 二度目は9月だったでしょうか。「駅伝のまち 不満続々・・・子午線マラソン廃止に続く西脇多可新人高校駅伝も中止」の記事でした。A記者、あなたは「駅伝のまち」を掲げる市から二つのロードレース大会が姿を消すことに危惧する市民の声を代弁していました。勇気ある記者の姿勢ですが、きっとあまた批判も受けたことでしょう。わたしはあなたの勇気をたたえる立場で記事を拝見したものです。

 10年前、「駅伝の町 世羅」を調査すべく世羅町観光協会の方に連絡したことがあります。担当者のDさんからは「いつでも来てください。ご案内しますから」と丁寧な返信をいただきました。そのころH教育大学の先生から(世羅高校で調査を行っていた関係で)現地の声が届きました。「西脇市には400mの全天候型陸上競技場がありませんね、市民レベルのランナー組織もありませんね」と。

 のちにNHK「スポヂカラ」(本年)で「一本の山道と駅伝の町~広島・世羅」が放映されて多くの人知るところとなった「花とフルーツと駅伝のまち」世羅町。人口はわずか1万5千人。この町で世羅高校が全国高校駅伝で都大路を走るときは1千万円の寄付が集まるといいます。外国人留学生の費用も町民の支援、自動販売機収益の二割は世羅高への支援に回ります。うらやましいと思いました。

 S市議とわたしは世羅の町に興味を抱いたころ、「野球の町」阿南市へ視察に赴いたことがあります。この町は六大学野球、還暦野球、学童の大会等で年間1億円の経済効果を生んでいました。「野球でまちをよくする課」で説明を受けました。双方の取り組みは実は以下のような考え方なのです。

 元NHKスポーツ報道センター長・杉山 茂氏は著書「スポーツは誰のためのものか」(2011年 慶應義塾大学出版会)で次のように述べています。「必要なのはスポーツの振興ではなく、地域振興にスポーツはいかに役立つかのアピールであろう」と。続いて、「地元の人たちの日常が豊かで和やかなものにするためのスポーツとは何か」だと力説しています。つまり杉山氏は「魅力ある町づくり」という声を聞いて久しいが、どれだけの市町村がそのキーとしてスポーツを視野に入れただろうかと問題を提議されたのでした。

 世羅町や阿南市はそのあたりをよく理解し、研究もされたのでしょう。西脇市が遅れているというつもりはさらさらありません。ただ、誰も気づかなかったということではないでしょうか。A記者の先駆的な記事の意義はこのあたりにも関連性があると思うのです。

 昨日、三度目の優勝を大会新記録2時間01分10秒で飾った倉敷高校は岡山県。午後四時の岡山駅構内では号外「倉敷三度目のV」が配布されています。ネットの記事では60代男性の声が。「県民として誇りを感じます。今後も陸上競技を続けて箱根駅伝などで活躍するのを楽しみにしています」。ここでは外国人留学生の存在を肯定するかのようです。世羅高校駅伝部の前監督、岩本真弥氏は語ります。「ケニア選手は日本人以上に努力する。その姿がチーム全体の向上につながっているのだ」と。

 A記者さん、西脇市には全国的な西脇工高があるのですから、二つのロードレースを復活させ、全国各地から参加者を募ってはいかがでしょう。その際、中高年から小学生までのランニングクラブも創設します。全天候の400m競技場もつくりましょう、サッカーも可能ですしね。勝利よりも市民の健康を第一に考える取り組みをやっていきます。可能なら男女一名ずつケニアの留学生迎えるのもいいですね。みんなの国際理解が高まりますよ、きっと。

 だから一度「駅伝のまち 西脇」というスローガンを取り下げます(実態も乏しいですから)。そこから新しい取り組みやまちづくりを経て数年後に「駅伝のまち西脇」を再構築するのです。そうすればきっと、日本中が注目する健康の町、駅伝の町西脇市が誕生するのではないでしょうか。

 とりとめもないことを書きましたが、A記者の真っすぐな目に期待を寄せながら、今後のご活躍を願うものです。一度ゆっくりとコーヒーを飲みながらご意見を伺いたいと願う一市民です。時間をお取りしました。失礼しました。どうかよいお年をお迎えください。

                  自称「田舎のスポーツライター」より

 



 

 

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