「草魂」 歴史を大切にする心

 

 西脇市が生んだプロ野球通算317勝(歴代4位)の殿堂入り投手、鈴木啓示さん(元近鉄投手、監督)の座右の銘「草魂」にちなんだ大会、「鈴木啓示 草魂カップ少年軟式野球大会」が出身地の西脇市で開催された。

 11月24,25、12月1日の3日間、西脇公園野球場ほかで実施された大会は、本年で6回を数える。鈴木さん本人は、3日間とも西宮から西脇へ車をとばした。律儀な人である。県下32チームが集う開会式で、大会の定着ぶりを眺めながら、わたしは感慨を深めていた。

 かつての大投手との出会いは6年前にさかのぼる。2016年の1月、わたしたちは大リーグ研究家であり、阪神タイガースの顧問を務めていた故今里純氏の遺品を展示する特別野球展を開催した。西脇市在住の歯科医だった今里さんは大リーグ全球団から年間フリーパスを贈られる唯一の日本人だった。「今里先生にはお世話になったよ」と語る鈴木さんは、吉田義男さん(元阪神選手、監督)とともに、開会の式典に足を運んでくれたのだった。

 それがきっかけだった。こちらは学校の野球部経験なし。小中時代は当時盛んだった「町対抗少年野球大会」だけがプレーの場で、野村町(鈴木さんの実家)と対戦すると、そこには小学生時代からエースを張る「おませな左腕投手」がいた。細見の左腕から繰り出すストレートと浮き上がるようなカーブは高校生でも打てそうになかった。子ども心にそう思ったものだ。

 後に、育英高校から甲子園に出場し、1996年にドラフト2位で近鉄バファローズに入団すると、その年10勝を記録してオールスター・ゲームにも出場した。畏れ多い人物、それがわれわれ世代の共通の認識。その鈴木さんと話す機会が増えた。我が町(昭和30年代は村と呼んだが)少年野球の当時のメンバーが聞けば羨ましがるだろうか。

 わたしは平成25年に「NPOスポーツアカデミーShine」を立ち上げた。次世代のリーダーを育成し、スポーツによる地域活性化を図るためのNPOである。特別野球展の翌年のこと。西脇時報社(当時)はその主旨を理解し記事にしてくれた。西宮の自宅で記事を目にされた鈴木さんから連絡が入った。

 「いいことを考えてますねえ、わたしにできることがあるなら、遠慮なくいってくださいよ」。瞬間、わたしは鈴木さんに向かってとんでもない構想を語っていた。「西脇で鈴木さんの名がついた野球大会を創設します。その際はご協力ください」と。現西脇市議のS君に伝えると、「やりましょう」のひとこと。ふたりの阿吽の呼吸で「草魂カップ」構想が動き出した。

 野村克也氏が「豊富な練習と、徹底した自己管理で自らの地位を築いた」と評する鈴木啓示投手は数々の記録を残す。通算317勝は歴代4位。無四球試合78は日本記録で、3061奪三振はこれも歴代4位。開幕試合登板は14回を数え、これは400勝の金田正一投手(元国鉄,巨人)と並んで日本一。西脇市からこのような大投手が生まれている。その歴史的価値は「草魂カップ」6年の歩みの中で、わたしの中で徐々に認識されていった。

 大投手は個性も強い、そう耳にする。「鈴木さんは他の選手をほめない」、そんな批評を口にする者もいる。だが、考えてみよう。通算勝利100傑を眺めたら、鈴木さんのずっと下に、稲尾、梶本、杉下、東尾、工藤、堀内、平松、村田、江夏などの大投手の名前が印されていることに気づくだろう。彼らの上位に君臨し、プロ野球界最後の300勝投手、最後のシーズン25勝投手として歴史に名を残すであろう鈴木啓示は、いつも大観衆に向かって勝利投手として両手を挙げて応えていたのである。

 この6年間、公私にわたって「殿堂入り投手」とつきあいながら、この3日間で初めて、「鈴木啓示」という人物が、かつての大投手が、心底理解できたと思った。大会最終日には鈴木さんが解説者として永年所属するNHK大阪のO部長と、スポニチのT記者も来場されていたが、両社も、「草魂」投手の価値を知る故の長期契約なのではないだろうか。

 努力一筋、武骨、古武士のような男、頑固さ、群れない強さ(本人は弱いから群れないのだといわれるかもしれないが)。流行歌に在ったフレーズ「時代遅れの 男になりたい」、その価値が再び見直される時代になっている。鈴木啓示の今後に注目したい。

 同時に、この大会を創り上げたわたしは、自分の子どもたちに誇れる仕事をしていると、密かに胸を張っている。とはいえ、閉会式の会場には開会式に参列された行政関係者の顔がなかった。街の活性化はひととおりの義理を超えた部分で生まれる。さらに盛大なる「草魂カップ」大会目指して知恵を絞っていきたい。実際の運営で苦労された西脇軟式野球協会、北播少年野球連盟に感謝しながら、今後の努力を誓っている。

シニアの昭和史 独り言 (還暦野球スポコラ改題)

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