ちくしょう、(野球は)なんて面白いんだ
タイトルは本の一節である。望月衣朔子著「新聞記者」は二日で読み終えた。今朝から再び「男たちの大リーグ」(デヴィット・ハルバースタム著、常盤新平訳)に戻る。
1949年のヤンキースとレッドソックスのペナントレースを、56試合連続安打のジョー・ディマジオと「最後の4割打者」テッド・ウィリアムスに視点を当てて描いた最高の傑作、それが「男たちの大リーグ」で、野球のことだけしか書いていないからよけいに引き込まれる内容となっている。
試合前の打撃ケージで、打ち終えたウィリアムスが捕手に言う。「ちくしょう、なんて面白いんだ。一日中やったって飽きないぜ。それで給料(カネ)までもらえるんだからな」。まったくだ。こちとら、古希野球ではカネは持ち出しだが、「楽しくて仕方ない」のは大リーガーと共通である。
7月8日、西宮市津門(ツト)中央公園野球場で西宮スーパースター対三田プリンスの古希野球試合が行われた。M主将の運転する車に同乗。夙川の高級住宅街ではわたしの住まい西脇市とのあまりの違いに目を見張り、阪急今津駅にほど近い酒蔵通りでは竹で囲まれた「うなぎ」の名店に空腹を感じた。こういう「小さな旅」(?)も古希野球の楽しさの一つ。
古希野球の難しは間隔の長さに在る。雨など降られると1か月ゲームのない日が続く。投手は体調の維持に苦心する。といっても野手にはわからない世界だと思うので、元阪神の下柳投手の経験談を引用する(出展不明)。
・ゲーム後 室内でバイク30分 ストレッチ ぬるめのお湯に入る。
・登板翌日 有酸素運動とウェイトトレ 30~40分ジョギング 遠投 ベンチプレ ス100kg スクワット150~160kg
・2日目 完全休養 ・3日目 200m走 インナーマッスル
4日目 投球120~130球 80mダッシュ ウェイト・トレ
次回登板までこのように調整するのが投手という人種。下柳氏は、勝った日はエキサイトして眠れないし、中6日のストイックな生活からの開放感があると語っている。だから古希野球といえども雨でゲームが流れると本当につらい、いやなものなのだ。今回もそれなりの調整を経て、7月8日は1ヶ月ぶりの野球(登板)となった。
「完全試合をやってしまうと弱い者いじめかな?」、生意気な考えでマウンドへ行くと、またしても初回に1点を先取された。記憶は薄いがタイムリーヒットを浴びたはず。わが三田プリンスは2回表に1点を返して同点に追いついたが、二度の二死満塁を逃していた。そして迎えた3回裏、西宮の攻撃。死球のランナーからバントヒットが2本続いて完全に「切れた」三田の投手(わたくし)は真ん中低めに直球、カーブをそろえて、なんと3点も追加された。
味方ベンチからはヴェテランのYさんが「高めに投げろ」と指示してくれているのに。それなのにまたしても単調なピッチング。西宮の投手陣が良かったら完全な敗戦パターンだった。投手力に欠ける西宮に対し、三田は4回表に2点を返してなお一死満塁の場面で4番打者(わたし)に打順が回ってきた。西宮の先発投手Oさん(元プロ捕手)に替わりサイドスロー投手がリリーフに。
2球とも外角いっぱいにコントロールされツーストライク。わたしは落ち着いていた。投手の手からボールが離れる瞬間がよく見えていた。バットを一握り短く持ち直す。スタンスを決め、投手の手元に意識を集中して、3球目、やや外角よりのストレートをミートした。
セカンドの左から右中間へ転々、打球が転がった。ランナー3人が生還し、わたし(打者)は2塁へ。走者一掃の2塁打で5-4と逆転。初めて購入したバットでここ3試合は11打数8安打。
それからは高めの球を活用していった。古希野球の年齢に合った投球を心掛けたら、後半の4イニングは危なげなくゼロ封。これでチーム成績は3勝2敗となってやっと勝ちが先行となった。投げて、打って、こんなチャンスをくれているチームへの感謝が帰りのあいさつに現れる。「ありがとうございました」。8-4で勝った、着替えた、それぞれの車に分乗して帰路に着く。「ありがとうございました」。互いのあいさつが心地良い。
球場の芝も心地良かった。都会の中の狭い球場ながら美しい芝が選手たちを歓迎する。勝利投手となって試合後に芝の上を軽くジョギングするとき、わたしはテッド・ウィリアムスの言葉を真似るのだった。
「ちくしょう、なんて面白いんだ! 毎日やっても飽きないぜ」
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