スポーツの事業性と地域社会

 第7回鈴木啓示草魂カップ少年軟式野球大会が幕を閉じた。兵庫県下32チームの参加による三日間のトーナメントだった。北は養父市から南は淡路まで。西宮、明石、姫路、赤穂、高砂、三田、たつの市、神戸市からも。近くは丹波市のチームなど、県下多岐にわたる地域から参加していただいた。11月24、30、12月1の大会期間中は天候にも恵まれて、天然芝に覆われた美しい西脇公園野球場は無事閉会式を見届けたのだった。

 優勝は岩岡サニーズ(神戸市)で、準優勝は龍野ヤンチャーズ。体格に恵まれた岩岡のバッテリーを相手に、6年生がわずか3人の龍野は大健闘。さわやかな決勝戦だった。名球会投手、プロ通算317勝の鈴木さんと記念写真に納まる両チームの子どもたちと保護者は満面に笑みをたたえて、大会のフィナーレを飾った。

 早いもので、もう7回。昨年までにはなかったことだが、遠来の客が数人西脇市を訪れた。鈴木啓示(けいし)さんの熱烈なファンが球場へやってきたのだった。初日は倉敷市のファン。若い日の写真や結婚式の記事のスクラップもある。鈴木さんにサインをもらい握手をすると急いで帰っていった。二日目は福島県から。その方は本人に会えなかったからと西脇市内のホテルに一泊されて、最終日に西脇公園野球場へやってきて、近鉄バファローズ時代の背番号1のユニフォームまで披露されたとか。

 広島から、岡山市内から、京都からファンがやってきた。片田舎の西脇市を訪れた。草魂カップ開催の意味はここにある。名球会投手を持つ西脇市にはたくさんの人たちが関心を寄せている。球場が「鈴木啓示 草魂メモリアルスタジアム」と命名されて、鈴木さんのトロフィーやいくつかの記念品が展示されれば、さらに人気を博すだろう。

 「現代のスポーツは事業性、市場性も重要である」(杉山茂)と言われて久しい。だが現状では一抹の寂しさを感じる。県下32チームの選手、保護者に西脇市をアピールする観光案内などは配布できないものか。遠方から訪れるファンに報いる方法はないものか。わたしたち実行委員会が及ばぬ分野は行政の力で補っていただければありがたいと思うのだ。

 その意味では、7回の大会継続に尽力している西脇軟式野球連盟に、また協力団体である北播少年野球連盟に、行政から感謝状の一つも贈ってもらいたいと願っている。地域社会を育てるとはそういうことではないだろうか。

 遠来の客は「スポニチの記事を見て大会を知りました」といった。そのスポーツニッポン新聞社からは毎年出席していただくW氏が最終日に飛行機で駆けつけてくれた。札幌支局から伊丹へ。スポニチ評論家の鈴木さんへの敬意の表れである。律儀な人だ。鈴木さんとW氏との信頼関係はそばで見ていて気持ちが良い。

 7年目の大会が終わった。審判もしないわたしがなぜ、こうもグッタリ疲れるのか。わたしたちが目指す大会に近づける試行錯誤が疲労の原因であることは間違いない。実行委員会の面々の意識はすでに10周年に向いている。

 西脇ロイヤルホテル前で鈴木さん、W氏と握手を交わし、1年後の再会を約して別れた。疲れたけれど気持ちのよい三日間だった。それは地域社会の発展に貢献していることからくる充実感ではないかと思っている。

 中学生のころわたしの町には学校の野球部員が皆無だった。本格的に野球をするのは夏休みに実施される「町対抗少年野球大会」のみ。それゆえか、野村町のエース鈴木はあこがれの的であり、彼が育英高校で甲子園に出場し、のちに近鉄でエースとして活躍し始めると、鈴木さんとの思い出がわたしたちの生き甲斐となったものだ。

 今頃は西宮市のどこかの店で、鈴木さんとW氏は盃を交わしているかもしれない。きっと西脇の話で盛り上がることだろう。

 




 

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